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赤ちゃん通信

No.28 生まれたときからのスキンケア
    〜赤ちゃんの肌は乾燥しやすく未完成〜

国民の3人に1人が何らかのアレルギー疾患に悩まされているといわれており、特に乳幼児からのアトピー性皮膚炎は社会問題にもなっています。

では、どうすれば、アトピー性皮膚炎などの皮膚トラブルに悩まずに、赤ちゃんの健やかな肌を保つことができるのでしょうか。

今回は、子どもの皮膚とアトピー性皮膚炎についての第一人者である愛育病院皮膚科部長の山本一哉先生にお話をうかがいました。「お母さんのおなかの中の赤ちゃんの肌には、乾燥もアトピー性皮膚炎もありません」とは、先生のお言葉ですが、アトピー性皮膚炎などの皮膚トラブルを防ぐスキンケアのヒントはなんと、おなか(母胎内)の中の環境と出生について考えることにありました。

アトピー性皮膚炎は予防できます

今から40年ほど前に、「アトピー性皮膚炎は鼻にできない」「紙おむつが当たっているところにもできない」という報告をしました。今では、多くの方に認知され、Yamamoto's サインとして外国文献などにも掲載されています(写真1)。

なぜ、その2つの場所にはアトピー性皮膚炎がみられないのでしょうか。それは、鼻は皮脂の分泌が多く、おむつの中はしっとりとしていて、カサつかないからです。大人では鼻の部分は化粧崩れが起きやすいことは、よく経験されることでしょう。皮脂は、皮脂膜を作り皮膚の表面を覆うことで、外から有害な物質や細菌が入らないように防いだり、体内の水分が外に漏れ出さないように保護するバリアの役目を果たしているのです(注1)。

赤ちゃんの皮膚は乾燥しやすく、乾燥した皮膚はバリア機能が弱まっているので、外からほこりや細菌などの異物が入り込み、これが皮膚トラブルを起こす原因となります。

ですから、赤ちゃんの全身の皮膚を、鼻のように皮脂分泌が多く、おむつの中のようにしっとりとした状態に保つことができれば、アトピー性皮膚炎などの皮膚トラブルを予防することが十分可能なわけです。

写真1 赤ちゃんのアトピー性皮膚炎(重症例)
写真1 赤ちゃんのアトピー性皮膚炎(重症例)
  (注1) バリア機能維持には、皮脂や角層細胞間のセラミド、角層細胞内のNMF(最も新しい考えではフィラグリン)などがとても重要な働きをしています。 ※NMF:Natural Moisturizing

赤ちゃんの肌について考えてみましょう

皮膚には表皮と真皮があり、カステラに例えれば、表面のこげ茶色部分が表皮で、その下のスポンジケーキ部分が真皮にあたります。平均的な大人の皮膚の厚さは約2mm、表皮の厚さはその10分の1、0.2mmとなります。圧倒的に真皮の方が厚いのです。一方、表皮の一番外側には、とても薄い角層があります。平均的な大人の角層は表皮の10分の1、0.02mmという厚さで、この非常に薄い角層と生体成分である皮脂、セラミド、NMF(フィラグリン)などが一緒になって皮膚のバリア機能を担っているわけです(図1)(写真2)。

赤ちゃんと大人の皮膚の違いとして、まず、赤ちゃんの皮膚は大人より薄いということがあります。場所によってさまざまですが、大人の約半分の厚さです。したがって、大切な角層も大人よりもっと薄いため、容易に皮膚トラブルを起こしやすいのです。角層が薄いということは、「バリア機 能が弱い」ということにつながります。「バリア機能」とは皮膚を常にしっとりとしてしなやかに保つ機能のことです。そして、皮脂、角層細胞内にあるアミノ酸(NMF)、セラミドに代表される角層細胞間脂質の3つによって、その機能が保たれています。しかし、赤ちゃんの皮膚はもともと薄いた め、これらの成分が少なく、例えば、皮脂は、生後間もなくから思春期まで分泌が少ないので、赤ちゃんから学童期までの時期は、生理的に乾燥し やすいのです(図2)。

健康な皮膚のしくみ
皮膚は、うすい表皮とその下の真皮からできている。 表皮の表面には、丈夫なたんぱく質でできた角層があって、さらに皮脂の膜がおおっている。この角層皮脂膜などが、体の水分の蒸発を防ぎ、外部の刺激を阻止するバリアの役目をして、体を守っている。

 
図1 バリアの弱った皮膚は刺激を受けやすい

皮膚が乾燥すると・・・
皮膚の表面をおおう皮脂膜がなくなり、さらにセラミドが欠乏すると、角層がカサカサした状態になる。すると、皮膚から水分が蒸発しやすくなって、ますます乾燥する。また、バリア機能が弱まって、角層のすき間からバイ菌やほこりなどの刺激物が内部まで侵入し、トラブルを起こす。

 
図1 バリアの弱った皮膚は刺激を受けやすい

皮膚が乾燥しがちなアトピー性皮膚炎の子は、バリアが弱いため、健康な皮膚なら問題にならないような刺激でも、湿疹やかぶれなどのトラブルを起こしやすい。このバリアを強化するケアが、アトピー性皮膚炎のさまざまな悩みから脱け出す近道。

山本一哉著『アトピー性皮膚炎の最新治療』(主婦と生活社)より

図1 バリアの弱った皮膚は刺激を受けやすい
写真2 成人と小児の皮膚の厚さの比較(超音波断層写真)
山本一哉著『こどものアトピーによくみる50症状』(南山堂)より
写真2 成人と小児の皮膚の厚さの比較(超音波断層写真)
図2 皮脂の分泌量は年齢とともに変わる
図2 皮脂の分泌量は年齢とともに変わる

生後1年間は、まだ胎児の肌

赤ちゃんの皮膚がとてもデリケートな理由は、その出生と深く関わっています。キリンやウシ、ウマでも産まれ落ちて、母親が30分ほど赤ちゃんをなめているうちに起き上がり、自分で母親の乳房を探し、群れを追って歩けるようになります。しかし、ヒトの赤ちゃんは1年後でもそこまでは成長しません。人間として社会生活になじめる時期を考えてみると、おむつが取れる時期である2、3歳頃に相当することになります。この違いはなんでしょうか。動物との大きな違いは、ヒトがこれだけの文明社会を作り上げたことにあります。

この違いは、脳の発達、特に、前頭葉が発達したことによります。体重当たりの脳の大きさが、ヒトは他の動物に比べ非常に大きいのです。脳が十分発育するまで在胎したら、頭が大きくなりすぎて、骨盤を通って生まれることができなくなります。そこでヒトは在胎40週、骨盤を通れる大きさで産まれてきます。そのため、皮膚や脳は他の動物並に完成されてはいません。完成されるためには少なくとも2、3年間が必要です。つまり、赤ちゃんの皮膚は未完成と考えてもよいわけです。産科学では、「生後1年間は胎児である」と考えられています。

お母さんのおなかの中は、羊水にヒタヒタと浸って乾燥しない、汚れや細菌にさらされない、そして光の届かない環境です。ですから、赤ちゃんの皮膚は、常に「しっとりさせる」「きれいにする」「紫外線から防御する」というように、お母さんのおなかの中の環境に保ってあげることが必要にな るわけです。おわかりいただけたでしょうか。

お母さんの意識

お母さんは、赤ちゃんのスキンケアについてどのような意識をもっているのでしょうか。

私が国立小児病院で診察をしていた1980年に行ったアンケート結果では、赤ちゃんの顔を洗うときに、お湯または水のみで洗っている人は72%と最も多く、石けんで洗っている人は17%に過ぎませんでした。最近来院されたお母さん方にうかがってみても、依然として8割以上の人が、お湯または水のみで赤ちゃんの顔を洗っているという状況です。その理由としては、「赤ちゃんは皮膚が弱い」「石けんは刺激がある」などと考えているお母さんが多いようです。

また、最近の気になる傾向は、朝起きて赤ちゃんの顔を拭かないお母さんが増えているということで、60%を超えています。拭かれない朝の顔は、涙、目やに、鼻水、よだれなどで汚れているとすれば、皮膚トラブルが生じても何ら不思議ではありません。皮脂分泌の多い部位をお湯または水のみで軽く洗っている状態が長く続けば、脂漏性湿疹や汚れによる皮膚変化が起こってくることは容易に推測できるかと思います。つまり、乳児の顔にみられる湿疹は起こるべくして起きているといえるのです。実際、頑固なかさぶたを頭につけて来院する赤ちゃんがいますが、これは、日本特有の症状で、皮脂の多い頭をきちんと洗わなかったり、耳に水が入ることをこわがってシャンプーや石けんを十分に洗い流さないことなどが原因になっています。

また、スキンケア用品の使い方についても誤解をしているお母さんが多いようです。スキンケア用品を使っているお母さんの半数以上が、赤ちゃんの皮膚に何らかの異常(カサカサやブツブツなど)が出てきた時にスキンケア用品を使って、その異常を改善することを期待しています。スキンケア用品は、お母さんが洗顔後の肌がつっぱる感じを和らげるために使う化粧水などと同じものであり、あくまでも健康な皮膚に使って、その健やかな皮膚を保つためのものです。湿疹などを治療する医薬品ではありません。まず、このことを正しく理解してほしいと思います。

「きれいに」そして「しっとり」

スキンケアの基本は、先ほども述べたように、まず汚れを落として「きれいにする」ことです。決して「ごしごしとこする」ことでもなく、「無菌」にすることでもありません。ただ、「きれいにする」ということですから、よだれや食べ物の汚れなどがついているときは拭けばいいわけです。拭くときは、パッティングをするように拭いてあげてください。こすり拭きは、皮膚に傷をつけてしまいます。

汚れを落とした後は、「しっとり」させるケアが必要です。おふろやシャワーの後、手や顔を拭いた後など、何もしないでいると肌は乾燥してしまいます。そのままにしておくと、ひび割れが起こり、細菌や外界のいろいろな刺激物質が入り込んで皮膚トラブルが起きてしまいます。また皮膚から大切な水分が蒸発しやすくなり、ますます乾燥してしまうのです。アトピー性皮膚炎もこのようなメカニズムで起きてきます。それだけに、皮膚をしっとりと保つことが大切です。冬は乾燥しやすくカサカサして、痒みが増す季節なので、特に注意が必要です。

スキンケア用品の使用方法

(1)洗い方

「きれいにする」ためには、石けんなどを使って汗やあか、汚れを落とします。このときに大事なことは、「こすらないこと」です。洗い方のお手本は、お母さんの洗顔方法にあります。洗顔のしかたは、手のひらできめ細かい洗浄剤の泡をつくり、やさしく皮膚をなでるように洗うのであって、決してこすって洗ってはいないはずです。

赤ちゃんの肌を清潔にしようと「ごしごし洗う」お母さんがいますが、皮膚が薄く刺激に弱い赤ちゃんにとっては、こするだけでも刺激となってしまいます。いくら低刺激な洗浄剤を使っても洗い方が不適切では何の意味もありません。なお、赤ちゃんの場合には、首筋、わきの下、股のつけ根、手首、足首、指の間などの深いしわの部分も広げて洗い、石けんなどの流し忘れのないようにしましょう。

(2)入浴法

お湯を換えない和式の入浴では、お湯の汚れが気になります。また、温まれば、痒みは増すことになります。温まらず、しかもお湯を汚さない方法としては、シャワーがおすすめです。マンションのような密室型住居になった現在でも、昔ながらの「よーく温まって、湯冷めをしない」という入浴法が行われていますが、赤ちゃんの場合には、見直す必要があります。昔ながらの入浴法は、結果的に「赤ちゃんをゆでる」ことにつながり、温まることで痒さが増し、皮膚の保湿成分が溶け出して入浴後のカサつきを強くすることになります。入浴のコツは、(1)お湯の温度は38〜39℃、(2)シャワーで頭、顔も洗い流す、(3)こすらない(洗浄剤は、手のひらでやさしく洗い流す)です。

(3)拭き方

最も一般的な入浴後の水分の拭き方は、きれいな乾いたバスタオルを敷いた上に、赤ちゃんを仰向けに寝かせて、そのタオルで包むように拭くという方法でしょう。このときに、お母さんはどうしてもできるだけ早く拭こうとして、「ごしごしあわててこすり拭き」をしがちです。洗い方、入浴法でせっかくやさしくと努めてきたことを無駄にしないよう、軽くおさえてパッティングするようにやさしく拭いてあげましょう。なお、頭髪の水分は、乾いたタオルで拭き取るようにしましょう。

(4)スキンケア用品(保湿剤)の使い方

入浴すると汚れと一緒に皮脂、セラミド、NMFなどの保湿成分も流れ落ちてしまいます。お風呂から出たら必ずベビーローションなどを塗ってあげましょう。塗る場所は頭と耳を除いた全身です。入浴後できるだけ15分以内に、少しでも早く塗ってあげることが大切です。塗り方は、まず、手のひらに5円玉大のローションをとります。これが、2歳児までの「肩から指先まで片腕1本分」です。それを両手ですり合わせて、肩口から手指の1本、1本の間までさするように滑らせながら、塗っていきます。洗い方や拭き方と同様に「やさしく塗る」ことが重要で、決してすり込むことのないようにします。これを反対側の腕、左右の足、おなか、背中、最後に顔面と塗っていきます。ローションを塗った皮膚は数分でしっとりとした皮膚になります。このときに、皮膚の乾燥した部分やカサつき、皮疹があれば、その部分には、ローションを塗った後に、外用剤を重ね塗りします。

大切なこと

モンゴル 3,000メートルの高地に住む子供たちと

これでおわかりのように、赤ちゃんの皮膚は胎児のようにデリケートで、乾燥しやすく、バリア機能が未完成という特徴があります。そのため、少なくとも生後1年間は胎児であるとの前提で、注意深いスキンケアが必要です。皮膚科的にはさらに2〜3年は注意をしてほしいものです。

しかし、スキンケアといっても特殊なことを行うわけではありません。「お母さん自身が洗顔後はどういうスキンケアを行っているか」を思い出して、それを赤ちゃんに実行してあげてください。大切なのは生まれたときからのスキンケアです。生まれたときからこまめなスキンケアを行って赤ちゃんの皮膚をしっとりしなやかに保ち、バリア機能を保持できれば、アトピー性皮膚炎などの皮膚トラブルから守ってあげることができるのです。


<お話をうかがった先生>
山本一哉先生(やまもとかずや)
山本一哉先生(やまもとかずや)

【略歴】
母子愛育会 総合母子保健センター 愛育病院皮膚科部長 小児皮膚科医
1931年愛知県生まれ。1955年慶應義塾大学医学部卒業。1961年同医学部大学院終了。その間に米国留学。1965年国立小児病院開設に伴い皮膚科医長に就任。1996年より現職。
日本小児皮膚科学会の創始者であり、とくにアトピー性皮膚炎の予防と治療では右に出る者はないとされ、内外の医師から「皮膚科臨床医の手本」と呼ばれている。
2005年、第10回世界アトピー性皮膚炎会議にて、ILDS(国際皮膚科学会連盟)国際貢献賞を受賞。日本で2人目の受賞者となる。一男の父でもある。
『こどものアトピーによくみる50症状 どう診て・どう対処するか』(南山堂)、『どうする・ 外来診療こどもの皮膚病−診療からアトピー性皮膚炎まで−』(永井書店)など、著書多数。

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